風 鈴


走っても走っても
追って来る黒い影を
振り切るようにしても
夢の中まで忍び込んで来るから

この歌は貴方の為に書いたのよと
そうやって何度も口ずさんで
だけどそれは叶わぬ願いと
箱の中に閉じ込めてまた見ない振り

ただ私は淋しくて淋しくて
一人になるのが恐ろしくて
どうしようもなくつのる想いを
夥しい程の言葉で
埋め尽くして誤魔化した

それがどういう結末を導くのか
最初から解かっていながらも

夜が来なければ悪夢も見ない
朝が来なければ幻影も見ない
時がこれ以上満ちなければ
私の手がこれ以上皺枯れなければ

そしてそして

この世界から終ぞ飛び立ってしまえば
もう風の噂に心を乱される事も
鳩尾を抉られるような重い現実も
全て此処から消え去るのだと知りつつ尚
この足に絡まる鎖はどの柵より深く食い入り
私の闇に更なる空洞を築きあげるから

方明くの世界で音が鳴る

それは憐れんでいるような
それは懐かしんでいるような

カラカラとカラカラと
滑稽な音が鳴る

狡猾とは程遠い人の
胸に響いて突き刺さるようにと